そもそもLDLコレステロールやHDLコレステロールは、コレステロールそのものの科学構造に違いがあるわけではありません(つまり、悪玉のコレステロール構造、善玉のコレステロール構造が存在するわけではない)。コレステロールは脂なので血液中に溶け込むことができず、そのためアポ蛋白という水に親和性をもった蛋白質と一緒になって血液中に存在する必要があります。その際、どのようなアポ蛋白と結合するかによって、粒子全体の比重や構造に違いが生じ、その結果、LDLコレステロールやHDLコレステロールが出来上がるのです。
以前述べたように、これらの構造の違いを見分け、それぞれの濃度を測定するには超遠心分離法という特殊な方法が用いられて来ました。しかし、この方法は煩雑で時間やコストがかかるため、健康診断など大集団の血液分析には向きませんでした。これに対し、コレステロール全体、すなわち総コレステロールは比較的簡便に測定できるので、これまでの検査では総コレステロールを中心に判断がなされたのです(つまり、総コレステロールが高ければ、LDLコレステロールも高いと考えてよいだろうという発想)。この考えは細部には問題があるものの概ね正しく、事実、多くの研究により総コレステロールが高いことは動脈硬化に対し促進的に働くことが証明されてきました。
しかし、最近になってLDLコレステロールを直接測定する比較的簡便な方法が開発され、一般健診レベルにも普及したことから状況は大きく変化しました。もし直接LDLコレステロールが測定出来るのなら、そちらの方が望ましいことはすでに専門家の意見の一致をみるところであり、このような状況の変化から、LDL コレステロール、すなわち悪玉コレステロールを直接測って判断しよう という動きになったのです。
さて、総コレステロールにしても、LDLコレステロールにしても基準値が問題となるのですが、総コレステロールについては長いこと220mg/dlが基準値の上限として提唱されて来ました。LDLコレステロールについては2007年、日本動脈硬化学会という組織が“動脈硬化性疾患予防のための診療ガイドライン”を発表しています。この中で日本人におけるLDLコレステロールの基準値は<140mg/dlと規定されました。基準値とはあくまで管理目標であり、これを超えたらすぐに薬を飲むことを意味するものではありません。次回のコラムでは、この基準値について少し解説します。
経歴 1987年 慶應義塾大学医学部卒 同内科、老年科を経て1995年より現職 生活習慣病や動脈硬化危険因子に対する運動療法が専門。