脂肪肝が完成した後、それでとどまるか? (単純な脂肪肝のままでいるか?)、あるいはNASHに移行するのか? その分かれ目が何処にあるのかは、実は現在でもはっきりしたことは分っていません。たぶん、脂肪肝に何らかのプラスアルファの要因が働いてNASHに到るのだと考えられています。
その要因のひとつとして挙げられているのが活性酸素です。 われわれ人間は酸素を取り込み、これをエネルギーに変えることで身体を維持しています。 人間に限らず、酸素を利用して生きている動物では、取り込んだ酸素のうちの一定の割合が活性酸素に変わります。 御存じの方も多いかと思いますが、活性酸素は細胞毒性が強く、発癌や動脈硬化、老化などにかかわるといわれており、身体にとっては“悪者”扱いされている物質です。 その一方で、身体にはこの活性酸素を中和する数々のメカニズムが備わっており、実際には発生した活性酸素は瞬時に消去され、身体に害が及ばないようになっているのです。肝臓においても、内臓脂肪から流入した脂肪酸が分解されて細胞内のミトコンドリアという器官で酸素と共に利用され、細胞に必要なエネルギーが造られます。 この段階でも活性酸素は発生しますが、通常は中和系のメカニズムが働いて瞬時に活性酸素を除去します。 しかし、あまりに流入する脂肪酸が多くなると、その処理が増えることから発生する活性酸素も多くなり、時に中和系のキャパシティーを超えてしまいます。 そうなると除去しきれなかった活性酸素が肝細胞に対してダメージを与え、これがNASHへの引き金になる可能性があるのです。
この他にもNASHに到る要因として、様々な学説が提唱されていますが、少なくとも大量の内臓脂肪の蓄積が悪さをしているのは間違いなさそうです。 そこで重要になって来るのが内臓脂肪を減らす努力です。 現在、内臓脂肪を減らす有効な薬物療法は存在しないことから、NASHの治療あるいは予防は専ら運動療法と食事療法に依存します。内臓脂肪減少には負のエネルギーバランス(摂取エネルギーから消費エネルギーを差し引いたものがマイナスになる状態)が必須であり、運動量を増やすか、食事制限を行うか(あるいはその両方)して、体重を落とすのが一番確実な治療法です。 体重が10%減ると、内臓脂肪は30%以上減るといわれるので、先ずは5%程度の減量を目標とし、長期的には10%を目指すがよいでしょう。一部の生活習慣病では減量を伴わない場合でも運動療法の効果を認めますが、NASHにおいて減量(内臓脂肪の減少)は必須です。
メタボリックシンドロームの増加と共に、NASHの患者さんは確実に増えてゆくと予想されます。 当たり前のことですが、適度な食事制限と運動がこれからの社会ではますます重要視されてゆくでしょう。
経歴 1987年 慶應義塾大学医学部卒 同内科、老年科を経て1995年より現職 生活習慣病や動脈硬化危険因子に対する運動療法が専門。