非アルコール性脂肪性肝炎(non alcoholic steatohepatitis; NSAH)は1980年にLudwigという学者によって提唱された比較的新しい疾患概念です。 何やら難しい名前であまり身近に感じない病名ですね。では、“脂肪肝”はどうでしょうか?これだったら多くの方が名前くらいは聞いたことがあるでしょう。健康診断で腹部超音波検査の結果欄に“脂肪肝”と書かれた経験のある方も少なくないと思います。
さて、この脂肪肝、その名の通り肝臓に脂肪がたまってくる病気ですが、その結果として肝機能障害が生じ、肝臓の数値、具体的にはGOT, GTP (ALT, ASTと表記される場合もあります), γGPTなどの異常値が認められるようになります。 通常は脂肪が溜るだけで、肝臓そのものの寿命には大きな影響はないと考えられていたのですが、その一部に肝硬変に似た病態にまで発展する、いわば“悪性の”脂肪肝が存在することが明らかになりました。この悪いタイプの脂肪肝が非アルコール性脂肪性肝炎(以下NASHと呼びます)なのです。 一般に、肝硬変に至る原因はB型C型などのウイルス性慢性肝炎、アルコール性肝炎、特殊な形の肝疾患(自己免疫性肝炎や先天性代謝性肝疾患)がほとんどで、普通、脂肪肝だけでは肝硬変になることはないと考えられていました。ところが、Ludwigは飲酒歴がほとんどなく肝炎ウイルスも陰性にもかかわらず、病理組織上は肝臓への脂肪の沈着を特徴とし、肝硬変への進展を認める特殊な脂肪肝があることに気付きこれを“NASH”と名付けました。さらに、肝硬変は肝臓癌に進展する可能性がありますから、比較的良性な肝疾患と考えられていた脂肪肝から肝硬変→肝臓癌というシナリオが成立する可能性が示唆されたことは、われわれ臨床医にとっては大きなインパクトを与えました。
たしかに、肝炎ウイルスも陰性、アルコールもほとんど飲まないにもかかわらず、肝機能障害が次第に重症化する脂肪肝があることは我々もかなり以前から経験していました。何かおかしい?と思って診ているものの、どんなに検査を行っても脂肪肝以外の診断は得られませんでした。今から思えばこのような症例が “NASH”だったのかもしれません。
ではこの“NASH”はいったいどんな特徴があるのでしょうか?次回のコラムで御紹介します。
経歴 1987年 慶應義塾大学医学部卒 同内科、老年科を経て1995年より現職 生活習慣病や動脈硬化危険因子に対する運動療法が専門。