以前のコラムで、肥満予防あるいは減量目的で運動を行う場合、1週間あたりエネルギー消費量として2000〜2400Kcalが目安ということを御紹介しました。 では、メタボリックシンドロームにおける運動療法ではどの程度の消費カロリーを目標とすれば良いのでしょうか?
メタボリックシンドロームは肥満を伴うことが多いので、肥満解消をめざすならば上記のエネルギー消費量がひとつの目安になります。しかし、実際には 2000kcalを消費するのであれば1日60分のウォーキングをほぼ毎日行うことになり、日々忙しいビジネスマンがいきなり始めるにはちょっとハードルが高いかもしれません。幸いなことに、メタボリックシンドロームの改善(特に中性脂肪やHDL-コレステロール)には、減量は必ずしも必要条件ではないことが、多くの研究で確かめられています(減量は意味がないということではない)。 これらの研究成績では、必要運動量は1週間あたり1200kcalということでほぼ一致しています。おおまかにいって60分のウォーキング(必ずしも連続である必要はない)を1日おきにやれば達成出来るくらいのエネルギー消費量ですから比較的現実的な数字でしょう。もちろん、これは最低限の目標であり、また、ウォーキングもチンタラ歩くのではなく、意識的に速く、手を大きく振って行うことが必要です。 まずは、導入としてこの程度の運動から行い、慣れて来たら頻度や運動強度(歩く速さ)をしだいに上げてゆけば良いでしょう。
ところで、運動により中性脂肪やHDLコレステロールはどのくらい下がるのでしょうか? これも、研究により結果がまちまちなのですが、中性脂肪で4〜37%の低下、HDLコレステロールは4-22%の上昇という数字が報告されています。この数字をみて、効果大と判断するか、“この程度か”と判断するかは意見が分かれるところだと思いますが、少なくともHDLコレステロールに関しては、現在のところこれを上昇させる有効な薬剤は存在しないので、運動の有効性は評価すべきでしょう。 御存じの方も多いかと思いますが、HDLコレステロールは善玉コレステロールと呼ばれ、動脈壁にたまったコレステロールを引き抜き動脈硬化を予防します。 HDLコレステロールが1mg/dl上昇すると、男性で約2%、女性で約3%冠動脈疾患のリスクが低下するので、低かったHDLコレステロールが上がってくることは臨床的には意義が大きいのです。
今回でメタボリックシンドロームに関する話題は最終回です。 何かと話題のメタボリックシンドロームですが、言葉だけがひとり歩きしている感は否めません。特別な病気ではなく、食事と運動という基本的な部分を見直すことで対処出来る典型的“生活習慣病”なのです。
経歴 1987年 慶應義塾大学医学部卒 同内科、老年科を経て1995年より現職 生活習慣病や動脈硬化危険因子に対する運動療法が専門。